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異臭症を治すために

異臭症とは、本来のにおいとは異なるにおいを感じたり、においのしないはずのものににおいを感じたりする症状です。良いにおいであるはずのものに対して、焦げ臭いにおいや生ごみのようなにおいがするなど、不快な症状があります。嗅覚(きゅうかく)障害の一つです。

異臭という言葉は誰もが知っていますが、異臭症という症状があることはあまり知られていないのではないでしょうか。においの感じ方がおかしいと自覚していても、異臭症だと気づいていない方もいらっしゃると思われます。

好きだった香りが嫌なにおいに変わっているなど、以前とは違う感じ方をしていたら、異臭症かもしれません。かぜをひいたときは、鼻づまりなどでにおいがわかりにくいことがありますが、かぜが治った後ににおいの変化があったら、異臭症の可能性があります。

異臭症は不快な症状があるだけでなく、鋭い嗅覚を求められる職業の方であれば、仕事に支障をきたし、離職の可能性も出てきます。

また、異臭症そのものが命にかかわるわけではないのですが、本来と違うにおいに感じてしまうので、ガス漏れなどの危険を察知できない可能性もあります。

そのため、においの感じ方がおかしいことを我慢し続けるのではなく、検査を受けてできるだけ早く治療を開始しましょう。長く放置すると、回復する確率が低くなります。

異臭症を発症する原因となる病気があった場合は、その病気を治療しなければなりません。原因となる病気が治れば異臭症も治る可能性があります。

異臭症を治すためには、異臭症の症状・原因・治療について知ることが大切です。このページでは、異臭症を治したい方のために、異臭症の症状・原因・治療について詳しく説明しております。

1.異臭症とは

異臭症とは、嗅覚障害の一つで、その名の通り、本来のものとは異なるにおいがする症状です。

嗅覚障害は量的障害と質的障害に大きく分類することができます。

量的障害には、全くにおいを感じない、一部のにおいを感じない、決まったにおいだけ感じないといったケース、あるいは全般的ににおいを感じる力が弱まっているケースがあります。

質的障害は違うにおいに感じてしまうケースで、異臭症はこれに該当します。本来よりにおいを強く感じてしまう嗅覚過敏症は量的障害のイメージがありますが、不快感が強いため、これも質的障害に含まれます。

質的障害である異臭症はさらに、刺激性異臭症と自発性異臭症に分けられます。

  • 刺激性異臭症:本来のにおいと異なるにおいに感じる、あるいはどれも同じにおいに感じてしまうこと
  • 自発性異臭症:においのする物質がないのに、においを感じてしまうこと

異臭症では、焦げ臭いにおいや生ごみのようなにおいなど、不快なにおいを感じる方が多いようです。良い香りのするはずの花やおいしそうな料理から嫌なにおいがしたり、周囲の人と香りを共有できないのはとても残念でしょう。

本来のものと違うにおいを感じるので、料理人など嗅覚が重要視される職業の方は支障がありますし、日常生活でもガス漏れや火事に気付きにくいといった問題が発生します。

異臭症があると、量的障害である嗅覚の低下を伴っていることも多く、さらににおいがわかりにくいと味もわかりにくくなり、味覚にも障害を生じることになります。

異臭症の症状は、くしゃみをしたり、鼻をかんだりしたことがきっかけで発作的に起こることもあります。異臭症は必ずしも両側の鼻に起こるわけではなく、片側の鼻のみに起こることもあります。

また、異臭症であることは見た目ではわからないため、周囲から理解されにくく、無理解により本人がうつ状態になることがあります。

異臭症がなぜ起こるのか、まだ厳密にはわかっていませんが、かぜや頭部外傷の後に発症する方が多いため、嗅覚の回復過程で嗅細胞が誤って配置されるのではないかと考えられています。

そのほかに加齢、職業、アレルギー、神経変性疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病など)、薬剤の使用、腫瘍、脳外科手術、精神疾患、心理的要因も異臭症の原因と考えられます。

2.異臭症の治療

異臭症の治療を行う際、既往歴や発症時期などを尋ねる問診、血液検査、鼻咽腔(びいんくう)ファイバースコープ検査、基準嗅覚検査、静脈性嗅覚検査などで、原因を探っていきます。さらにCT検査やMRI検査などの画像検査も行うことがあります。

異臭症そのものの治療はまだ確立していませんが、異臭症の方は嗅覚低下を伴うことが多いため、異臭症の治療として嗅覚低下の治療を行います。嗅覚低下の治療法は、症状の程度や原因によって異なりますが、主に薬物治療です。

また生理食塩水を点鼻する方法があります。一時的に症状を抑える方法ですが、生理食塩水を点鼻することで、嗅細胞のある部分をふさいで、におい自体が届かないようにします。

亜鉛不足がある場合は、亜鉛製剤を内服することで症状の改善が見られることがあります。

異臭症の原因疾患がはっきりとしている場合は、その疾患の治療を行います。手術を行う場合もあります。原因となっている病気が治ると、異臭症の症状がなくなる可能性があります。

心理的な要因が考えられる場合や、異臭症による悩みで精神症状が見られる場合は、カウンセリングも行います。

嗅覚障害は発症してから放置した時間が長いほど、治るのに時間がかかります。そのため、においの感じ方に異常を感じたら、いつまでも我慢するのではなく、できるだけ早く治療を受けましょう。

3.異臭症を治すために日常生活でできること

異臭症を治すために日常生活でできることがあります。異臭症の治療を行いながら、同時に日常生活の見直しもしてみましょう。

1)睡眠

睡眠を十分にとることで異臭症の症状が軽減した方もいます。睡眠不足が嗅覚に悪影響を与えるのではないかと考えられています。

2)食生活の改善

食事が偏ると栄養素が不足するので、できるだけバランスの良い食事を心がけることが大切です。亜鉛が不足している場合、亜鉛製剤の内服が有効であるため、食事からも亜鉛を摂取しましょう。

3)積極的ににおいをかぐ

意識的にさまざまなにおいをかぐことで、嗅神経に刺激を与え活性化します。

4)悩みを共有する

異臭症は他人にわかりにくい症状で、一人で悩むとうつ状態になるケースもあります。親しい人に打ち明けたり、同じ悩みを持つ方と情報を共有したりすることで不安感が軽減します。不安を解消して精神面への悪影響を防ぎましょう。

異臭症は命にかかわるような状態ではありませんが、不快な症状ですし、他人に理解してもらうのが難しく、一人で悩まれる方も多いでしょう。職業によっては、嗅覚の異常が大きな障害となるかもしれません。

異臭症は、メカニズムや治療法がまだ確立されていません。しかし、嗅覚に関する研究が急速に進んでおり、異臭症に対するより有効な治療法の開発が期待されます。

生活習慣の見直しをすることで症状の改善につながることがあります。治療を受けながら、日常生活の中でご自身ができることを少しずつ取り入れてみてはいかがでしょうか。どうぞあきらめないでください。

嗅覚障害を治すために

嗅覚とは、文字どおりにおいを感じる感覚のことで、嗅覚は12個ある脳神経の一つです。鼻で感じたにおいは嗅神経に沿って脳へと伝えられ、脳にある脳神経核という神経集合体に伝えられます。

嗅覚障害とは、鼻からにおいを嗅いで脳神経に伝えられる過程で、何か問題が起こった場合に起こる障害のことを言います。嗅覚が障害されると味覚も障害を受けるために、同時に味がわからなくなったりします。

また、たいていの嗅覚障害は、嗅覚機能が低下することが多いのですが、時には嗅覚が過敏になったり、良いにおいを臭く感じる嗅覚錯誤などが起こることもあります。

風邪などを引き鼻が詰まっていると、食事の味を感じなくなったり、においを感じることができません。その状態が嗅覚障害と言えます。風邪のような一時的な疾患による嗅覚障害は、風邪や元の疾患が回復すると次第に良くなります。

しかし、時にはアレルギー性鼻炎や蓄のう症、がんの抗腫瘍薬の副作用、脳腫瘍や加齢が原因で嗅覚障害を起こったり、パーキンソン病やアルツハイマー症の初期症状として現れることもあります。

嗅覚障害を治すためには、嗅覚障害についてよく知ることが大切です。このページでは、嗅覚障害を治したい方のために、嗅覚障害の症状や原因、治療法などについて詳しく説明しております。

1.嗅覚障害とは? 

嗅覚障害とは、何らかの原因でにおいの感じ方が正常ではない状態を言います。鼻でにおいを嗅ぎ、その信号が嗅神経を通って脳に伝えられるまでの過程のどこかに障害が起こります。

風邪などの些細なきっかけで起こってしまう嗅覚障害から、脳の異常によって起こる嗅覚障害まで、原因は様々です。時間の経過とともに自然に良くなる嗅覚障害もあれば、治療が困難な嗅覚障害まで、原因によって経過も治療方法も異なります。

嗅覚障害そのものは特に命に関わるようなものではないので、場合によっては軽視されがちです。しかし、においを感じなかったり、臭くないものを臭いと感じたりすることは、本人にとってはとても辛いことです。嗅覚障害は見た目ではわかりませんから、患者は周りの理解を得にくく、中には、嗅覚障害によってにおいに異常に敏感になり、外出が怖くなって社会的に孤立してしまう例もあります。

2.嗅覚障害の症状

においを感じない

嗅覚障害の症状がありますと、日常生活にも少なからず影響が生じます。日常生活において、においを察知することで危険を回避している例が多くあります。

例えば、腐ったものを「食べてはいけないもの」として察知したり、ものが焼けるにおいを察知することによって火事を回避したりすることなどです。

しかし、嗅覚障害に陥ると、こういった危機回避ができなくなることがあるため、食中毒や火事などへより一層の注意が必要になります。また、同様の理由で、ガス漏れにも十分な注意が必要です。

また、嗅覚障害になることによって、日々の楽しみを失うこともあります。美味しいもののにおいがしない、香水や芳香剤などのにおいを楽しむことができない、お花のにおいが分からないなど、嗅覚障害は生活から潤いを奪うことにもつながります。

調理を仕事としている人や、家庭で料理を担当している主婦などにとっては、嗅覚障害は非常に不便なものです。においと味は密接に関係していますから、嗅覚障害から味覚障害を引き起こすこともあり、嗅覚障害の患者の中には仕事や生活に支障を来たす場合もあります。

嗅覚障害の症状は、大きく3つのタイプにわけられます。においが分かりにくくなったり、感じにくくなったりする嗅覚障害が嗅覚減衰症、本来のにおいとは違うにおいを感じてしまう嗅覚障害が嗅覚錯誤、全くにおいを感じなくなる嗅覚障害が無嗅覚性嗅覚障害です。

においの感覚が減弱しているという症状の結果、においがわかりにくくなったり、感じにくくなる質的な減退が嗅覚症状のほとんどを占めています。

これとは別に、においの質が変化して感じることがあります。たいていの場合はにおいの感じにくさと伴って起こります。これが嗅覚錯誤と呼ばれる本来のにおいとは違うにおいを感じてしまう状態を言います。

また嗅覚障害の最も多い原因である副鼻腔炎などでは、病巣から放たれる悪臭を感じて、常に臭いにおいがすると感じる場合もあります。これとは全く別の心因性の精神疾患などの症状として、嗅覚障害が起こる場合もあります。

3.嗅覚障害の原因

嗅覚障害の原因は、呼吸性嗅覚障害、末梢神経性嗅覚障害、中枢神経性嗅覚障害の大きく3つにわけられます。

1)呼吸性嗅覚障害

呼吸性嗅覚障害は、鼻腔が塞がれたり、通りが悪くなったりすることによって起こります。においを感じる細胞は嗅上皮の粘膜にあります。 呼吸性嗅覚障害の場合、においの分子が鼻の奥の方にある嗅上皮の粘膜に到着できず、その結果においを感じることができなくなります。

風邪や鼻炎などにかかると粘膜に炎症を起こし、その部分が腫れて鼻腔の空気の通り道をふさいでしまうことがあります。鼻づまりなどの状態がこれにあたります。風邪や鼻炎などの一時的なものなら、ほとんどの場合はそれらの症状が治まるにつれて嗅覚障害も自然に改善されます。

しかし鼻の怪我やもともとの形態異常、手術後の癒着などにより鼻腔の空気の通り道をふさいでしまったような場合には、治療をしないと嗅覚障害は改善されません

2)末梢神経性嗅覚障害

末梢神経性嗅覚障害は、においの分子をキャッチする嗅上皮の障害や、嗅覚を脳に伝える嗅神経、つまり脳に伝える通り道が障害されたことによって起こります。

アレルギー性鼻炎、蓄のう症(慢性副鼻腔炎)、ウィルス感染などによって嗅上皮に炎症が起こったり、嗅上皮が萎縮したりすることで末梢神経性嗅覚障害が起こることもあります。

また、頭を強く打ったり、お薬を長期にわたって飲んでおられる方は、嗅神経が断裂してしまうことがあります。この場合の嗅覚障害は治療が困難になることもあります。

3)中枢神経性嗅覚障害

中枢神経性嗅覚障害は、脳のにおいを感じる部分が障害されることによって起こります。においはまず、嗅球と呼ばれる大脳の最も鼻腔に近い部分に送られますが、ここが脳腫瘍や頭部外傷などで圧迫されると、中枢神経性嗅覚障害となります。

また、嗅覚は嗅球からさらに視床下部や大脳皮質などで分析され知覚されるため、これらの脳の機能が障害されても、嗅覚障害を起こします。加齢や老人性認知症、アルツハイマー症などによる嗅覚障害がこれにあたります。

4)その他

1有毒物質(毒素)によるもの

ガソリン、タバコ、銅、水銀、トルエン、調髪化学物質などの様々な刺激物質を吸入することによって起こる嗅覚障害もあります。全体としては稀ではありますが、嗅神経を損傷することによって起こると言われます。

たいていの場合、においを感じにくくなるだけではなく、異嗅症と呼ばれる良いにおいを臭く感じたり、においがないのに感じたりする症状も生じます。

2薬剤性

内服薬や注射など薬物療法による副作用ですが、引き起こす可能性がある薬物は抗癌薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗甲状腺薬等多岐にわたります。しかし、薬物性の嗅覚障害に対する報告例は非常に少なく、良く知られていないのが現状です。

(3)先天性

生まれつき嗅覚がない、もしくは低下しているという状態を言います。しかし、自身の自覚がなければわからないために、発見が遅れることが多いと言われています。

そのほか、稀に亜鉛不足によって嗅覚障害が起こることもあります

4.嗅覚障害の治療 

嗅覚障害の治療は、点鼻薬による薬物療法を中心に行われます。原因にもよりますが、3ヶ月以内に治療開始すれば、その半数以上は良くなると言われています。

においがわかりにくいと気づいた時点で病院などでの診察を受けられることが大切です。嗅覚検査などを行い、症状が明らかであれば治療を開始します。

嗅覚障害の治療法は、1)薬物療法、2)手術療法が主なものです。ただし嗅覚障害が起こっている原因によってその治療法は異なります。

呼吸性嗅覚障害や末梢神経性嗅覚障害の治療には、薬物療法が有効です。点鼻薬、内服薬による投薬が行われることもあります。原疾患である風邪やインフルエンザ、ウィルス感染などの治療も同時に行われます。血液検査で、亜鉛不足が確定したら、硫酸亜鉛が処方されることもあります。

霧状の薬剤を口や鼻から、直接患部に当てる方法が行われることもあります。霧状の薬剤を吸引することにより、効率よく患部に薬剤が行き渡るため効率が良くなります。

怪我や形態異常によって鼻腔の通りが悪くなっている場合には、手術で通りを良くすることで、嗅覚障害は大幅に改善されます。ただし、手術による癒着によって鼻腔が塞がれている場合には、再度手術をしてもまた癒着を起こす可能性もあるので、慎重に嗅覚障害の治療をすすめる必要があります。

中枢神経性嗅覚障害の場合は、もともとの疾患である脳腫瘍や脳浮腫、頭部外傷などの治療によって改善が期待されます。アルツハイマー症や老人性認知症などで嗅覚障害が起こっている場合は、それらの治療を行いますが、急激な改善は望めないかもしれません。加齢による嗅覚障害に関しては、経過を観察しながら、嗅覚障害が生活に大きな支障をきたさないように、周りが配慮する必要があります

嗅覚は生命に関係するような問題にはならないことが多いために、軽視されがちです。しかし生活の質を保つためには非常に重要であり、美味しいものを美味しく感じたり、食中毒や火事などを事前に回避するなど大きな役割を果たしています。

治療に関しては、早ければ早いほど回復は十分に期待できます。また劇的な改善ではなく緩やかなものであるために治療をやめてしまう方も少なくありません。嗅覚障害はしっかりと治療すればよくなる病気です。どうぞ諦めないでください。

顔面神経麻痺を治すために

顔面神経麻痺とは、顔面の片側がうごかせなくなることを言います。顔の表情を作る表情筋を司る顔面神経が何らかの理由で働かなくなることで起こります。

顔面神経麻痺は、原因不明で突然起こるものが約60%を占め、“ベル麻痺”と呼んでいます。次に多いものはハント症候群と呼ばれる帯状疱疹(ヘルペス)ウイルスが再活性化したもので約15を占めています。その他には、骨折、糖尿病、中耳炎や腫瘍、脳梗塞などが原因で起こります。

顔面神経麻痺は40代に最も多く、10代以下には少ないと言われています。またベル麻痺、ハント症候群による顔面神経麻痺には、を用います。治療はできるだけ早く始めた方が予後が良いことがわかっています。

顔面神経麻痺の主な症状は、1)顔面の半分の筋肉が動かせなくなる、2)下の前2/3味覚の障害、3)耳や後頭部の痛み、4)聴覚が敏感になり、音が耳に響く、などの症状が現れます。

顔面神経麻痺の主な訴えとしては、1)口元からよだれが出たり、飲んだものが口角からこぼれる、2)頬の中に食べ物がたまる、3)“パピプペポ”がうまく言えない、4)目を閉じようとしてもうまく閉まらず、涙が溢れるなどを自覚します。

顔面神経麻痺を治すためには、顔面神経麻痺の症状・原因・治療について知ることが大切です。このページでは、顔面神経麻痺を治したい方のために、顔面神経麻痺の症状・原因・治療について詳しく説明しております。

1. 顔面神経麻痺とは? 

顔面には三叉神経という神経と顔面神経という2種類の神経が通っています

この二つの神経はそれぞれ役割が分かれていて、顔の感覚を担当する三叉神経と顔の表情を作る筋肉の運動を担当する顔面神経のそれぞれが協調して顔の機能を司っています。

この顔の働きのうち顔面神経に異常が起こることで起こる疾患が顔面神経麻痺です。顔面神経は12個ある脳神経の一つで、脳の中の脳幹と呼ばれる部分から出て、骨に開いた細い通り道を通って顔に到達します。この間に何らかの異常が生じて起こるのが顔面神経麻痺と呼ばれます。

顔面神経麻痺は突如として起こります。顔面神経麻痺の約60%は原因不明であり、これを別名“Bell(ベル)麻痺”と呼んでいます。次に多いのが、ヘルペスウイルスによる顔面神経麻痺で、“ハント症候群”と呼ばれています。他にも、骨折や脳梗塞、脳腫瘍、糖尿病、ストレスなどが主な原因となっているようです。

顔面神経の主な異常の原因には先ほどお話したヘルペスウイルスというウイルスと水痘帯状疱疹ウイルスというウイルスの2種類のウイルスの影響が知られています。

この2種類のウイルスは人体に感染した後に神経に沿った炎症を起こすことがわかっていて、この過程で顔面神経を傷つけてしまうのです。このような神経の障害は時によっては重症化することもあるので、顔面神経麻痺の早期発見と早期治療が不可欠なのです。

2. 顔面神経麻痺の症状

顔面神経麻痺の症状で主なものは表情の喪失です。顔面には表情筋という筋肉があり顔を作っている骨と顔の皮膚とを繋ぎ、表情を作り出す働きをしています。

この表情筋を動かしている顔面神経に異常が起こると表情を動かすことができず様々な症状が出てきます。

代表的な症状は突然に現れる片側の表情の喪失です。目を閉じる時に働く神経も顔面神経による働きなので、兎眼(とがん)という目が十分に閉じなくなる症状が知られています。額にシワを作ることができず、口角が下がったり、食事の時に食べ物が口からこぼれてしまったりと顔の片側だけにいろいろな症状が出てきます。

このほかにも涙が出にくくなったり、唾液があまり分泌されなくなったり、口の中が乾いてしまうことがあります。感染するウイルスによっては口の中や耳の周りにブツブツと水疱が出てくるので、顔面麻痺に伴って現れる様々な症状に注意が必要です。

一番の大きな問題としては外観の問題が大きく、表情の喪失と左右差により、精神的にも大きな影響があります。外出に対する恐怖感など様々な社会的な問題が起こり得ます。

また、まぶたを閉じられず、涙が止まらない、乾燥のために角膜が傷つきやすい、口角が下がることにより、口の中に食べ物が溜まってしまったり、特に水分などが口角からこぼれる、よだれが出てしまう、パピプペポがうまく発音できない、などの様々な身体上の症状も問題となります。

このように食事がうまくできない、はっきりと発音ができないことから、さらにストレスを感じたり、対人関係に支障をきたすことが多くなります。

3. 顔面神経麻痺の原因

顔面神経麻痺の原因は大きく分けると3種類に分けることができます。

最も多くの原因を占めているのが単純ヘルペスウイルスによる感染です。単純ヘルペスウイルスはいわゆる口唇ヘルペスや性器ヘルペスの原因ウイルスで、原因不明とされていた顔面麻痺の原因としてこの単純ヘルペスウイルスが指摘されてるのです。

このほかにも水痘帯状疱疹ウイルスの感染が原因で起こる顔面麻痺が知られています。この水痘帯状疱疹ウイルスが原因の顔面麻痺は特にラムゼイハント症候群と呼ばれていて、顔面神経の周囲の炎症が原因で神経が圧迫されてしまったり、神経自体が炎症を起こしてしまうことで顔面麻痺が起こります。

この時に、耳の周囲にブツブツとした水疱や出血が起こることが特徴で、このような症状が合わさって見られる場合にはラムゼイハント症候群が疑われます。

ハント症候群はその約半数が重症化する傾向があるとされており、早期に治療を始めることで予後は良くなると言われています。顔面神経麻痺は早期発見により症状の悪化を食い止めることができるので症状には常に注意しておきましょう。

他にも、側頭骨の骨折により顔面神経が傷つけられてしまったり、脳腫瘍、中耳炎や糖尿病によって起こる末梢神経障害によっても起こることがあります。他にも脳梗塞などの中枢神経障害によっても起こることがあります。

このほかにも脳腫瘍など様々なことが原因で顔面神経の麻痺が起こります。初期症状をしっかりと把握して、早めに病院にかかるようにしましょう。

また、顔面神経のいかなる部位に障害があるのかで、中枢神経と末梢神経の障害に分けられます。中枢神経障害は脳内の病変である脳梗塞や脳腫瘍などで起こります。末梢神経障害は脳の中にある顔面神経核から筋肉に至るまでの神経に障害を起こすことを言います。

中枢神経を障害する顔面神経麻痺では、おでこの筋肉である前頭筋と呼ばれる筋肉は問題なく動かせるのが特徴的です。眼球を上方に動かしおでこを見るように、するとおでこにシワがよるのが前頭筋の作用です。

4. 顔面神経麻痺の治療

顔面神経麻痺の治療は早期に行われることで後遺症を残さずに治療することができます。顔面神経麻痺の治療は1)薬物療法、2)手術療法、3)リハビリテーションなどがありますが、顔面神経麻痺の原因により治療法か異なります。

1)薬物療法

まず、麻痺が始まってすぐの段階では神経や神経の周囲の炎症を取り除くようにする治療法が取られます。

また、ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスなどのウイルス感染が疑われる場合には抗ウイルス薬を投与をします。ベル麻痺などは原因不明であることもしばしばですが、ウイルス感染の影響も否定できないため、特に麻痺の強いものには抗ウイルス薬の投与がガイドラインでも推奨されています。

また顔面神経麻痺により、まぶたが閉じられないという症状が出現し、角膜を傷つけてしまうということも起こり得るために、目薬や眼帯などが処方されることもあります。また神経の修復に必要なビタミン剤なども処方されます。

2)手術療法

手術は、炎症などにより神経が炎症を起こし腫れると神経が通っている骨の細いところで、神経が圧迫されてしまい、神経自体が圧迫を受けてうまく神経が働かないことがあるために、圧迫している骨を削るものです。

骨を削ることで神経の通り道を広くして神経自体の損傷を回避します。しかし、手術の適応かどうか調べるために神経が傷ついていると判断する検査を行うには1週間以上の経過観察が必要であり、なんでも手術すると過剰な処置になってしまうなど、判断が難しいと言われています。

3)リハビリテーション

顔面神経の衰えを防ぐ意味から、低周波による電気刺激のリハビリテーションが行われることもあります。またマッサージや鏡を見ながらの表情筋を動かす自己訓練などを指導します。また、言語療法による、発声訓練なども行われます。

しかし、過度の運動訓練や低周波電気刺激は病的共同運動という異常な運動を引き起こすことがあり注意が必要です。病的共同運動は神経と筋肉のつながりが間違えて繋がってしまう現象で、目を閉じると一緒に口が動いてしまうような症状のことを言います。

顔面神経麻痺は、ウイルス感染との関連が深い病気です。ウイルス感染以外にも、原因がわからないことも多々あります。また、外観的な問題からもストレスが多く、外出などを避けるようになったりと、精神的なストレスも大きくなるためそのストレスにより麻痺を悪化させてしまうこともあります。 

しかし早期に治療を行うことにより、その予後が異なると言われています。早期の治療開始が回復にも大きく繋がります。顔面神経麻痺は、早期にしっかりと治療をすれば良くなる病気です。どうぞあきらめないでください。