脳過敏症候群は、近年になって提唱された頭痛に関する新たな概念です。東京女子医科大学脳神経センターの清水俊彦先生らが、臨床研究により2011年に提唱しました。脳内の興奮が収まらない状態となり、さまざまな症状が出てきます。
脳過敏症候群の発症は、片頭痛と大きな関係があります。頭痛は、わりと安易に捉えられがちで、当面の痛みが治まればよしとされる傾向があります。そのような頭痛・片頭痛に対する治療の方法を続けてきた結果、生じてしまう症状といえます。
脳過敏症候群を治すためには、脳過敏症候群の症状・原因・治療について知ることが大切です。このページでは、脳過敏症候群を治したい方のために、脳過敏症候群の症状・原因・治療について詳しく説明しております。
1.脳過敏症候群とは
脳過敏症候群とは、頭痛のさまざまな症状に対する新しい考え方で、片頭痛と深いかかわりがあります。
片頭痛は、とりあえず痛みを取るといった対処の仕方では根本的な解決になりません。そのような治療を繰り返していると、脳過敏症候群の症状につながってしまいます。
片頭痛を発症すると、頭の片側もしくは両側の主にこめかみ周辺で疼痛が起こります。ひどい場合は2~3日間も、つらい症状が続くことがあります。とにかく痛みを抑えたい、という切実な想いから、鎮痛剤に頼る方は多いでしょう。
市販されている鎮痛剤には、過度の服用は避けるよう注意書きがしてあります。たとえば薬局でロキソニンを購入しますと「1日2錠まで、次の服用には最低でも4時間はあけること」と、薬剤師さんに言われます。月単位で考えますと、10日以内(3分の1以内)におさえることが肝心です。
頻繁に使用してしまうと薬物乱用の状態となり、そこから別の症状を引き起こすことになります。それが脳過敏症候群です。痛みは取れても、脳が興奮する要素は蓄積され、さまざまな症状が出現するようになります。
2.脳過敏症候群の症状
脳過敏症候群の症状には、主に頭重(ずじゅう)と頭鳴(ずめい)があります。
頭重は、文字通り頭がすっきりしない重たい感覚、めまいがする、不安感につつまれるといったものです。頭鳴は、耳鳴りがする、頭ががんがん響くといった症状です。
脳過敏症候群の症状は、元となっている片頭痛と共通しています。
予兆として、閃輝性暗点(せんきせいあんてん)という幾何学模様、あるいは歯車のような視覚的症状が出現することがあるのも似ています。閃輝性暗点は約20~30分で消失し、その後に激しい頭痛が起こります。
症状は一定期間に渡り持続しますので、気分的にもつらく、ストレスも溜まります。予兆を感じたら、「またきたか…」とうんざりするでしょう。頭痛の症状から、行動する意欲を失くす、食欲不振、不眠症、先行きへの不安といった心因的な要素にまで影響を及ぼすことになるのです。
3.脳過敏症候群の原因
脳過敏症候群の原因として、ひとつは頭痛・片頭痛に対してのふさわしくない薬の服用法があります。とにかく頭痛の痛みから解放されたいという気持ちから、安易に鎮痛剤を使いがちです。
服用すれば、一時的に頭痛は回復します。そうして、また頭痛が起これば服用を繰り返し、濫用してしまうのです。
鎮痛剤を服用する頻度が高くなると、脳が「痛み」に対して敏感になるという傾向があります。
以前よりも、頭痛が起こる回数が多くなり、その分、また鎮痛剤に頼ることも増えていくのです。薬を多用するうちに薬に慣れてしまう、あるいは症状が複雑化するという要因もあります。
関係の深い片頭痛の原因として、脳内で血管が拡張することが考えられています。拡張された血管を収縮させるため、セロトニンが放出されます。放出がおさまりセロトニンが減少し、再び血管が拡張しようとするときに片頭痛が起こるのです。
また顔面の周辺を支配している三叉神経も、片頭痛とかかわりがあります。三叉神経が何らかの刺激を受けることで血管を拡張させるのが原因とされています。これら拡張された血管を元に戻す調整をすることが、片頭痛の治療には必要となってくるのです。
鎮痛剤には、いろいろと種類があります。拡張された血管を収縮させる効能をもつのは、薬剤です。片頭痛が起こる原因をふまえて、脳内の血管や三叉神経に作用しなければ、適切な治療にはならないのです。
単に炎症をおさえ痛みを除去するだけの鎮痛剤は、片頭痛にとって役不足です。根本的な治療にならず逆に痛みに対して過敏になってしまい、脳の興奮状態が出やすくなる脳過敏症候群を誘発することとなるのです。
また片頭痛そのものを発症させる誘因は、いくつもあります。ストレスの蓄積、睡眠不足、長時間炎天下で過ごす、においに敏感になる、人ごみなどに酔う、飲酒、女性であれば月経、といった要素が該当します。
4.脳過敏症候群の治療
脳過敏症候群の治療は、原因となっている片頭痛をいかにうまく対処させるかということにかかってきます。
薬物療法が中心となりますが、その中には予防的な療法もあります。片頭痛の症状がなるべく出ないようコントロールし、脳過敏症候群へ移行しないようにするのが良い治療法です。
起きてしまった片頭痛に対しては、先述しました通り鎮痛剤を用います。通常の錠剤、口の中ですばやく溶ける崩壊錠、点鼻薬、注射と種類があります。
錠剤を服用するのが一般的ですが、吐き気がある場合は点鼻薬が有効です。注射は即効性が期待できますが、自己注射をするにはトレーニングが必要です。
片頭痛では、薬剤の充分な効果が期待できる服用タイミングがあります。発症後の頭痛がまだ軽いうちに服用するのが適しています。ただし鎮痛剤であっても、過度の使用は、やはり注意するべきです。薬物濫用の状態に陥る可能性は否定できません。
片頭痛を何度も経験していると、予兆期にパターンがあることに気づかれるかもしれません。個人差はありますが、食欲に変化が出たり、あくびが頻出し集中力に欠ける、むくみや首こり・肩こりが出るなどがサインとなる場合があります。先に示しました「閃輝性暗点」は、ほぼ確実な前兆となりえます。
これらの予兆、前兆が出た際には、きっかけとなった背景、気温や体調などの条件で思い当たることは細かくメモをしておくのがよいでしょう。例えば、寒い日に帰宅して急に暖房のきいた室内に入った直後に「閃輝性暗点」が出現した、その日は寝不足でとても疲れていた、といった具体的な内容です。
一度、発症してしまうとつらい片頭痛ですが、症状の出やすい状況をなるべく回避することが肝心です。寝不足やストレス、感受性を刺激する音や光に接しないようにするなどです。脳過敏症候群は、まだ研究途中にある疾患であり、これから新たな対処法や治療薬などが開発される可能性をひめています。
脳過敏症候群に陥らないめにも、日頃の生活で片頭痛が起きないよう気をつける習慣を持ちましょう。薬剤に頼る機会は、少しでも減らしていきたいものです。どうぞあきらめず治療と向き合い、症状が改善できるようにしてください。