嗅覚とは、文字どおりにおいを感じる感覚のことで、嗅覚は12個ある脳神経の一つです。鼻で感じたにおいは嗅神経に沿って脳へと伝えられ、脳にある脳神経核という神経集合体に伝えられます。

嗅覚障害とは、鼻からにおいを嗅いで脳神経に伝えられる過程で、何か問題が起こった場合に起こる障害のことを言います。嗅覚が障害されると味覚も障害を受けるために、同時に味がわからなくなったりします。

また、たいていの嗅覚障害は、嗅覚機能が低下することが多いのですが、時には嗅覚が過敏になったり、良いにおいを臭く感じる嗅覚錯誤などが起こることもあります。

風邪などを引き鼻が詰まっていると、食事の味を感じなくなったり、においを感じることができません。その状態が嗅覚障害と言えます。風邪のような一時的な疾患による嗅覚障害は、風邪や元の疾患が回復すると次第に良くなります。

しかし、時にはアレルギー性鼻炎や蓄のう症、がんの抗腫瘍薬の副作用、脳腫瘍や加齢が原因で嗅覚障害を起こったり、パーキンソン病やアルツハイマー症の初期症状として現れることもあります。

嗅覚障害を治すためには、嗅覚障害についてよく知ることが大切です。このページでは、嗅覚障害を治したい方のために、嗅覚障害の症状や原因、治療法などについて詳しく説明しております。

1.嗅覚障害とは? 

嗅覚障害とは、何らかの原因でにおいの感じ方が正常ではない状態を言います。鼻でにおいを嗅ぎ、その信号が嗅神経を通って脳に伝えられるまでの過程のどこかに障害が起こります。

風邪などの些細なきっかけで起こってしまう嗅覚障害から、脳の異常によって起こる嗅覚障害まで、原因は様々です。時間の経過とともに自然に良くなる嗅覚障害もあれば、治療が困難な嗅覚障害まで、原因によって経過も治療方法も異なります。

嗅覚障害そのものは特に命に関わるようなものではないので、場合によっては軽視されがちです。しかし、においを感じなかったり、臭くないものを臭いと感じたりすることは、本人にとってはとても辛いことです。嗅覚障害は見た目ではわかりませんから、患者は周りの理解を得にくく、中には、嗅覚障害によってにおいに異常に敏感になり、外出が怖くなって社会的に孤立してしまう例もあります。

2.嗅覚障害の症状

においを感じない

嗅覚障害の症状がありますと、日常生活にも少なからず影響が生じます。日常生活において、においを察知することで危険を回避している例が多くあります。

例えば、腐ったものを「食べてはいけないもの」として察知したり、ものが焼けるにおいを察知することによって火事を回避したりすることなどです。

しかし、嗅覚障害に陥ると、こういった危機回避ができなくなることがあるため、食中毒や火事などへより一層の注意が必要になります。また、同様の理由で、ガス漏れにも十分な注意が必要です。

また、嗅覚障害になることによって、日々の楽しみを失うこともあります。美味しいもののにおいがしない、香水や芳香剤などのにおいを楽しむことができない、お花のにおいが分からないなど、嗅覚障害は生活から潤いを奪うことにもつながります。

調理を仕事としている人や、家庭で料理を担当している主婦などにとっては、嗅覚障害は非常に不便なものです。においと味は密接に関係していますから、嗅覚障害から味覚障害を引き起こすこともあり、嗅覚障害の患者の中には仕事や生活に支障を来たす場合もあります。

嗅覚障害の症状は、大きく3つのタイプにわけられます。においが分かりにくくなったり、感じにくくなったりする嗅覚障害が嗅覚減衰症、本来のにおいとは違うにおいを感じてしまう嗅覚障害が嗅覚錯誤、全くにおいを感じなくなる嗅覚障害が無嗅覚性嗅覚障害です。

においの感覚が減弱しているという症状の結果、においがわかりにくくなったり、感じにくくなる質的な減退が嗅覚症状のほとんどを占めています。

これとは別に、においの質が変化して感じることがあります。たいていの場合はにおいの感じにくさと伴って起こります。これが嗅覚錯誤と呼ばれる本来のにおいとは違うにおいを感じてしまう状態を言います。

また嗅覚障害の最も多い原因である副鼻腔炎などでは、病巣から放たれる悪臭を感じて、常に臭いにおいがすると感じる場合もあります。これとは全く別の心因性の精神疾患などの症状として、嗅覚障害が起こる場合もあります。

3.嗅覚障害の原因

嗅覚障害の原因は、呼吸性嗅覚障害、末梢神経性嗅覚障害、中枢神経性嗅覚障害の大きく3つにわけられます。

1)呼吸性嗅覚障害

呼吸性嗅覚障害は、鼻腔が塞がれたり、通りが悪くなったりすることによって起こります。においを感じる細胞は嗅上皮の粘膜にあります。 呼吸性嗅覚障害の場合、においの分子が鼻の奥の方にある嗅上皮の粘膜に到着できず、その結果においを感じることができなくなります。

風邪や鼻炎などにかかると粘膜に炎症を起こし、その部分が腫れて鼻腔の空気の通り道をふさいでしまうことがあります。鼻づまりなどの状態がこれにあたります。風邪や鼻炎などの一時的なものなら、ほとんどの場合はそれらの症状が治まるにつれて嗅覚障害も自然に改善されます。

しかし鼻の怪我やもともとの形態異常、手術後の癒着などにより鼻腔の空気の通り道をふさいでしまったような場合には、治療をしないと嗅覚障害は改善されません

2)末梢神経性嗅覚障害

末梢神経性嗅覚障害は、においの分子をキャッチする嗅上皮の障害や、嗅覚を脳に伝える嗅神経、つまり脳に伝える通り道が障害されたことによって起こります。

アレルギー性鼻炎、蓄のう症(慢性副鼻腔炎)、ウィルス感染などによって嗅上皮に炎症が起こったり、嗅上皮が萎縮したりすることで末梢神経性嗅覚障害が起こることもあります。

また、頭を強く打ったり、お薬を長期にわたって飲んでおられる方は、嗅神経が断裂してしまうことがあります。この場合の嗅覚障害は治療が困難になることもあります。

3)中枢神経性嗅覚障害

中枢神経性嗅覚障害は、脳のにおいを感じる部分が障害されることによって起こります。においはまず、嗅球と呼ばれる大脳の最も鼻腔に近い部分に送られますが、ここが脳腫瘍や頭部外傷などで圧迫されると、中枢神経性嗅覚障害となります。

また、嗅覚は嗅球からさらに視床下部や大脳皮質などで分析され知覚されるため、これらの脳の機能が障害されても、嗅覚障害を起こします。加齢や老人性認知症、アルツハイマー症などによる嗅覚障害がこれにあたります。

4)その他

1有毒物質(毒素)によるもの

ガソリン、タバコ、銅、水銀、トルエン、調髪化学物質などの様々な刺激物質を吸入することによって起こる嗅覚障害もあります。全体としては稀ではありますが、嗅神経を損傷することによって起こると言われます。

たいていの場合、においを感じにくくなるだけではなく、異嗅症と呼ばれる良いにおいを臭く感じたり、においがないのに感じたりする症状も生じます。

2薬剤性

内服薬や注射など薬物療法による副作用ですが、引き起こす可能性がある薬物は抗癌薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗甲状腺薬等多岐にわたります。しかし、薬物性の嗅覚障害に対する報告例は非常に少なく、良く知られていないのが現状です。

(3)先天性

生まれつき嗅覚がない、もしくは低下しているという状態を言います。しかし、自身の自覚がなければわからないために、発見が遅れることが多いと言われています。

そのほか、稀に亜鉛不足によって嗅覚障害が起こることもあります

4.嗅覚障害の治療 

嗅覚障害の治療は、点鼻薬による薬物療法を中心に行われます。原因にもよりますが、3ヶ月以内に治療開始すれば、その半数以上は良くなると言われています。

においがわかりにくいと気づいた時点で病院などでの診察を受けられることが大切です。嗅覚検査などを行い、症状が明らかであれば治療を開始します。

嗅覚障害の治療法は、1)薬物療法、2)手術療法が主なものです。ただし嗅覚障害が起こっている原因によってその治療法は異なります。

呼吸性嗅覚障害や末梢神経性嗅覚障害の治療には、薬物療法が有効です。点鼻薬、内服薬による投薬が行われることもあります。原疾患である風邪やインフルエンザ、ウィルス感染などの治療も同時に行われます。血液検査で、亜鉛不足が確定したら、硫酸亜鉛が処方されることもあります。

霧状の薬剤を口や鼻から、直接患部に当てる方法が行われることもあります。霧状の薬剤を吸引することにより、効率よく患部に薬剤が行き渡るため効率が良くなります。

怪我や形態異常によって鼻腔の通りが悪くなっている場合には、手術で通りを良くすることで、嗅覚障害は大幅に改善されます。ただし、手術による癒着によって鼻腔が塞がれている場合には、再度手術をしてもまた癒着を起こす可能性もあるので、慎重に嗅覚障害の治療をすすめる必要があります。

中枢神経性嗅覚障害の場合は、もともとの疾患である脳腫瘍や脳浮腫、頭部外傷などの治療によって改善が期待されます。アルツハイマー症や老人性認知症などで嗅覚障害が起こっている場合は、それらの治療を行いますが、急激な改善は望めないかもしれません。加齢による嗅覚障害に関しては、経過を観察しながら、嗅覚障害が生活に大きな支障をきたさないように、周りが配慮する必要があります

嗅覚は生命に関係するような問題にはならないことが多いために、軽視されがちです。しかし生活の質を保つためには非常に重要であり、美味しいものを美味しく感じたり、食中毒や火事などを事前に回避するなど大きな役割を果たしています。

治療に関しては、早ければ早いほど回復は十分に期待できます。また劇的な改善ではなく緩やかなものであるために治療をやめてしまう方も少なくありません。嗅覚障害はしっかりと治療すればよくなる病気です。どうぞ諦めないでください。