老人性難聴は、加齢にともない耳の機能が衰えることで起こる症状です。特別な原因がなくても、老化による自然な現象のひとつとして軽く捉えられがちです。年齢を重ねるにつれ、しだいに聴こえ方が悪くなっていきます。

しかし「もう歳だから、こんなものか…」と、あきらめて難聴の状況をそのままにされている方も多いでしょう。しかし聴こえ方の機能を補うことはできます。多くの方が悩まれているだけに、医療機関ではさまざまな治療の方法が考えられているのです。

老人性難聴を治すためには、老人性難聴の症状・原因・治療について知ることが大切です。このページでは、老人性難聴を治したい方のために、老人性難聴の症状・原因・治療について詳しく説明しております。

1.老人性難聴とは

老人性難聴とは、難聴のなかでも耳のいろいろな機能が老化することから起こる音の聴こえにくさをいいます。

長年の生活習慣や、職場や住空間など置かれた環境から、ご本人の自覚しないうちに進行していることもあります。

40歳をすぎた頃から少しずつ聴こえ方に問題が生じ、60歳以降くらいから不便を感じるようになることが多いようです。聴力の検査をしてみますと、高い音域での周波数が聴き取り困難である傾向があります。

また複数の種類で音が混じっている場合に、聴き分けることもむずかしくなります。普段の生活で、意識的に何かの音をキャッチし身の回りに危険がせまっていないか察知することはよくあります。ご高齢の方では、その状況判断ができにくくなるという危うさがあります。

人とのコミュニケーション手段である会話がしづらくなるのも、生活する上で支障が出てきます。聴こえないと、何度も相手に聞き直す機会が増えていきます。そのうち遠慮がちになり、つい会話を理解しているフリをしてしまうこともあります。

しだいに口数が少なくなり、人と接するのが面倒で内にこもるようになると精神衛生上も好ましくありません。老人性難聴の「聴こえにくい」という要因から、行動範囲を狭めたり、生活そのものが億劫になるという悪循環は避けたいものです。

2.老人性難聴の症状

老人性難聴の症状には、聴力の低下があります。初期の頃は高い音域だけが聴き取りにくく、そのうち低い音域にまで波及します。

ゆっくりと悪化していき、また、どちらか片方の耳だけでなく、左右両側で同様に症状が出るのが老人性難聴の特徴といえます。

ただ、すべての音に対して聴こえにくさがあるわけではないのです。例えば人の話し声が小さいのは聞き取れなくても、ガラスが割れる音や物がぶつかる衝撃音には、逆に「びくっ」とするほど反応する場合もあります。

また聴こえないわけでなく、「正確に聴き取れない」という症状があります。「ワカサギ」と「カワハギ」のように、母音や子音の並びが似ている単語を聞き違えて意味が通じなくなるなど、ちょっとしたことで会話が成立しなくなります。

音の伝わり方そのものだけでなく、伝わった音が意味していることを脳が解釈するのに時間がかかるようになる、というのも老人性難聴の症状といえます。早口で話かけられると、返答するまでに「微妙な間」ができてしまうのです。

3.老人性難聴の原因

老人性難聴の原因は、加齢にともない内耳や聴神経の機能が低下することだといえます。

耳介(じかい)から内耳に伝わった音は、蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変換されるしくみがあります。蝸牛には、有毛細胞(ゆうもうさいぼう)という細胞があります。

老化すると身体は全般的に活性化しなくなり、細胞の数は減少して新たな細胞も作られにくくなります。音を聴くための有毛細胞も例外ではなく、年齢を重ねるにつれ少なくなり、聴こえ方に影響が生じます。

それまで問題なく耳に入っていた音、とくに高音がうまく聴き取れなくなります。

有毛細胞の減少だけでなく、栄養状態の悪化も原因と考えられます。細胞の質を左右するのは血液です。血液を運ぶ血管は加齢に準じて傷みやすくなり、とくに「動脈硬化症」を発症していれば、血管が硬くなるため血流が悪くなります。

老人性難聴は「加齢による機能の衰え」ということが全体的にいえます。電気信号が蝸牛から聴神経を通じて脳へ伝わる際に、正しく処理されないということも要因のひとつです。何か伝わっているけれども、機能が低下しているので認識できないのです。

老人性難聴以外にも難聴の種類はあり、原因が単純にひとつではない場合も考えられます。例えば、若い頃から騒音のある環境で働いてきた方が騒音性難聴を発症し、年齢を経て老人性難聴の症状も加わるといったケースです。

難聴とは無関係に、糖尿病や高血圧症、動脈硬化症などの持病がある場合も、老人性難聴を発症させる要因となります。薬を常用していると、その副作用などで難聴を誘発することも考えられます。

いくつもの原因が重なり、老人性難聴の症状を引き起こしている可能性があります。原因のひとつひとつを完全に洗い出すのはむずかしく、そのような場合は治療も試行錯誤で様子を見ながら行うようになります。

4.老人性難聴の治療

老人性難聴の治療では、音を聴きとる機能を補助することが中心となります。音の聴こえにくさからくる生活の不便さを解消し、若い頃と同等の生活レベルを保つことができるようにします。

具体的な治療方法としては、耳そのものの機能を手術などで回復させる方法、あるいは補聴器などの医療器具を用いて機能を補う方法があります。

老人性難聴の症状には個人差がありますので、ケースバイケースで選択していきます。

補聴器には価格帯や機能などに種類があります。また使われる方の用途や聴こえ方にあわせて微調整する必要もあります。オーダーメイドの補聴器ですと、おひとりずつ耳の形状にあわせて製作します。耳の穴に入れてしまい、外部からの見た目がわかりにくい商品もあります。

補聴器を効果的に活用するためには、よく聞こえるようになった状況に慣れることが肝心です。長い期間を経て聴力が落ちていると、急に聴こえ方が良くなるのは違和感があるかもしれません。

補聴器を用いていても、聴力がしだいに低下することも考えられます。電池の交換やお手入れなどメンテナンスをして、耳にフィットした最適な状態かどうか販売店で定期的にチェックしてもらうのがいいでしょう。

補聴器を用いても効果が得られない方には、外科手術により人工内耳を施す方法があります。日本耳鼻咽喉科学会がその適応基準を明確にしています。90デシベル以上の難聴で、身体障害者手帳で2級から3級をお持ちの方が該当します。

補聴器と違い、身体の内部に医療装置を埋め込みます。全身麻酔による外科手術で、術後はリハビリテーションを行う必要もあります。手術費用は決して安価ではなく、またリハビリテーション体制の整った施設が近くにあることも条件となります。

それぞれの治療法でメリット、デメリットがありますので、ご自分の症状や必要性にマッチした方法を選択することになります。また最新の医療情報をこまめにチェックされると、治療の参考になることもあります。

老人性難聴は、多くの方が経験している疾患です。おひとりで悩まず、原因を見つけることが大切です。その上でしっかりとした治療を行ってください。どうぞあきらめないでください。